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監督(私)のメッセージを伝えることは映画ではない

  • 執筆者の写真: Sota Takahashi
    Sota Takahashi
  • 2020年9月20日
  • 読了時間: 3分

最初に書くと、僕は作る側として、映画で何かを伝えるということができるのか、怪しく思っています。もっといえば、映画では何も伝えられないのではないか、とすら思っています。そのことについて書きます。


フランス哲学者、若森栄樹さんはこう書いています。

「カントは形而上学の伝統に従って、芸術は自然を模倣するというんですが、何が自然なのか。自然というのは無限に多様なものを我々に与えるわけですが、そういう贈与という自然の行為そのものを模倣するということです。だから、自然をそのまま描くなんていうことはできないし、それはだめなんですね。自然がまさに自由として、過剰に与える、その自由な贈与と作品がならなければならない。」(「裏切りの哲学」より)


「無限に多様なものを我々に与える」ものが作品と呼ばれるものであり、私が伝えたいメッセージのみをあなたに届けるものではない。作品とはあまりにも多くのメッセージを発信し続けているが故に私のメッセージが霞んでしまうものではないか。


これは有名な逸話なのですが一応引用します。

三浦哲哉さんの本からの引用です。

「フランスにおける世界最初の映画興行で、動く映像をまのあたりにした観客たちがなによりも驚いたのは、背景で風に揺れる葉叢だったという。」(「映画とは何か」より)

このリュミエール兄弟が監督した映画で画面の中央に映っていたのは、赤ちゃんが食事をしているという風景です。しかし人はその赤ちゃんではなく「背景で風に揺れる葉叢」に驚いたといいます。このことはすごく重要なことに思えます。


つまり映画作品の画面とは「自然がまさに自由として、過剰に与える、その自由な贈与」が行われているが故に作者のメッセージなんて霞んでしまうものだと思うのです。リュミエール兄弟が監督した赤ちゃんの画面は赤ちゃんを見せるということ(作者のメッセージ)に見事に失敗しています。


話はズレますが、僕はここで蓮實重彥さんの「監督 小津安二郎」で書かれている「壺の画面」について思い出します。これは小津安二郎監督の『晩春』に出てくる、壺が映っているショットについて書かれています。この本で何人かの映画評論家が、この壺の意味を読解しようとしていると紹介されています。しかし蓮實さんは、壺以外にも多くのものが映っているじゃないかと指摘します。壺の手前には机の足のようなものが見切れているし、奥には障子がありそこに植物の影も映っている。「壺の画面」と呼んでいるが、これは壺意外の多くのものが同時に映っているのだと。この指摘は、赤ちゃんを映そうとしたのに見る人は葉叢をみて驚いた、あの最初期の映画の観客に似ていませんか?


無限に発せられるメッセージの1つとして作者のメッセージは発せられる。しかしそれは同時に、あまりにも他のメッセージが多すぎて伝わらなくなってしまう。そう思うと、やはり映画で何かを伝えることなんてできるのか、あるいは伝えようとする態度は、正しいのかどうか、考えてしまいます。


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