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湖で亀をつかまえた

  • 執筆者の写真: Sota Takahashi
    Sota Takahashi
  • 8月6日
  • 読了時間: 3分

更新日:7 日前


亀を捕獲しに行ったときのボートと研究者2名@Ludaš湖
亀を捕獲しに行ったときのボートと研究者2名@Ludaš湖

 私の滞在しているSuboticaから12km程外れたLudašという湖ではエコキャンプという環境保全に関する活動をしている場所がある。僕は前からここで行われているキャンプのことが気になっていて、先日取材に行った。

 行く時期によっている人もやる調査も変わるだろうが、僕が行ったときにやっていたのはベオグラード大学の生物学で博士課程に在籍している2人の研究者が、Ludaš湖に生息している亀の生態を調べるというものだった。この研究者が僕を誘ってくれて、ある日の朝イチに行われる亀の捕獲作業に同行することにした。

 小さなボートに乗って朝日が差し込む湖を滑っていく。雲一つない空、それを反射する水面、遠くに生えている草が空と水面を分けている。この景色でも5時半に起きた甲斐はあった。捕獲作業では湖の中10箇所に埋められている罠にひっかかった亀を回収していく。1人の研究者が色々と解説してくれながら捕獲していく。スケールは小さいけれど、野生を舞台にしたジャングルクルーズのようだ。

 亀の餌となるのは外来魚だと教えてくれた。罠の中にあらかじめ入れておき、それに誘き寄せられるように亀が罠の中に入ってくる。では外来魚をどのように捕獲するのかというと、同じ罠に時々間違ってかかっていることがあり、それを集めて各罠に分配するのだそうだ。このときも罠の一つになぜか大量に外来魚がかかっており、亀の捕獲後、外来魚の首にナイフを刺して、次の日用の罠に分配していた。ちなみに在来種は湖に戻す。生態系を乱す外来生物は餌として使用しても現在の生態系に悪影響はないしむしろ好都合というわけだ。亀の入っていた罠には餌として入れられた魚の骨が残っていた。

 なるほどと思いつつ、ボートに乗って眺めているだけの時間を過ごしているとつい余計なことを考えてしまう。生態系を守るために餌にされる外来魚。これがもし人間社会だったら…なんとも気味の悪い事態となるだろう。この街にとって僕は明らかな外来種である。ここで暮らしているわけではなし、結婚しているわけでも子供がいるわけでもないので”生態系”を壊すことはなかろうが、例えば僕がここで働き、家族がいたら、こちら人たちはどのように受け止めるのだろうか。僕のいるヴォイヴォディナ自治州はもともと他民族が住む場所ではあるが、やはりアジア人は部外者である。そう感じる。そんなことを考えながら小さなボートに3人漂っていた。ああ、ここで殺されて湖の底に沈められたら、誰が気づいてくれるのだろう。そういえばペドロ・コスタの『血』の最後は義父の遺体を湖に沈めた少年の姿で終わっていたな。あれ、ヒッチコックでもそういう描写があったような…。黒沢清の『LOFT』も湖に沈む死体の描写があった。湖と映画の関係を考えるとどこか陰惨な景色が広がる。

 当たり前のように殺されて亀の餌にされる外来種を眺めながらそんなことを思っていた。もちろん人間は野生的に生きているわけではない。社会的な生き物である。社会に新しい人間が入ってきたら調和できるように行動することができる。あるいは調和できるような政策がとられる。湖の外来魚はそれができずに在来種を腹一杯喰っちまってバンバン個体数を増やし調和を乱すから問題なのだ。

 それにしても外来魚を餌にするため喉の辺りにナイフを刺すときの「ズブズブズブ」という音は、なんとも気味悪く湖に響いていた。やはり僕にとって湖とはどこか暗い雰囲気と結びついてしまう場所だ。

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