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アーティストの冬眠日誌

  • 執筆者の写真: Sota Takahashi
    Sota Takahashi
  • 2024年3月1日
  • 読了時間: 7分

2月25日


「アーティストの冬眠」というプロジェクトで長野県木祖村に来た。

自分でアーティスト・イン・レジデンスの映画を作っておきながら、まだ参加したことがなかったのでとても楽しみ。

駅に着くとアーティストの岩熊力也さん、美幸さん夫妻が出迎えてくださった。

宿泊先となる藤屋旅館に連れて行ってもらい、荷物を下ろして近くのスーパーまで。今夜は岩熊さんが近隣に住むアーティストの方とかとパーティーを開いてくださるそうで、その買い出しも兼ねている。

17時ごろから僕と岩熊さんのビールからパーティーが始まった。入れ替わり立ち替わり10人くらい来てくださった。料理は鍋3つ(!)に、おいしいお豆腐、すんきという郷土料理と、たくさん。とっても美味しい。美幸さんは木祖村出身で、その幼馴染の英士さんという方もいらして、パーティーの二次会はその英士さんのご自宅の2階にあるバーで飲む。そのご自宅というのはまた美幸さんの生家であるという。一軒家の2階にあるとは思えない豪華なバー設備。すごい。

パーティーから何からすっかりご馳走になってしまった。


2月26日


昨日の残りの鍋を食べながら寒さで縮こまっているとあっといいう間に午後になってしまった。外に出て散策。久々に氷柱を見る。雪降る中、色々歩き回るとこの村は水路が町中に張り巡らされていることに気づく。

すっかり出し忘れていた請求書を郵送し、家に戻って、また鍋をつつきながらヒッチコックの『救命艇』を見る。ヒッチコックにしてはずいぶんとご都合な映画に思えたが、帆が動くと顔に影が落ち、タイプライターを吹き飛ばすという演出はおもしろい。主人公の女性は貧民街出身でありながらジャーナリストとして大成しているようで、それが次々と物を失っていく様子がまたよい。この前書いてそのままになっていた日記や、書き途中の日記を追記。

夜歩いてみたが、シンシンとしていて誰も歩いていない。特に夜やっている店もないようだ。


2月27日


この村では毎夜定時に村の有線放送みたいなのが流れている。内容は村のニュースとか。このニュースをどうやって流しているのかが気になり、村役場へ。聞くと毎日収録して放送しているらしい。その様子を撮らせてもらえないかと交渉。うまくいけば明日撮れるかもしれない。

その後、今日は木曽福島駅あたりを散策しようと駅へ。ここは外国の方が多く訪れるようで、待合室にいると3人の外国の方が。駅員さんと思われる方がその3人と話している。あとで話してみるとその3人がコンビニ飯のゴミを持っていることに気づき「ゴミを捨てましょうか」と声をかけていたそうだ。ここら辺にはゴミ箱がないからだという。なんと優しい声かけ!

木曽福島は薮原よりもずっと都会な印象。町を色々歩きながら高瀬資料館という私設の資料館へ行く。ここで高瀬家の末裔の方から色々とお話ししていただいたが、その内容がとってもおもしろい。いくつか私設資料館を知っているので、他の私設資料館にも是非行って見たくなる。入館料200円で、僕しかいなかったので資料館内をマンツーマンで解説いただいた。島崎藤村にゆかりのある家で、大家の末裔なのだがとっても話しやすく、なんといっても「私のおばあさんが」とか「私のおじいさんが」とか、歴史上の資料があくまで家族内の話として聞けるのは新鮮。置いてある資料の歴史的価値と話される家族の話が奇妙な結びつき方をしている。すっかり色々お話しいただいて、それだけで満足した。

ところで僕はいまだに「薮原(やぶはら)」の読み方が慣れておらず、「かごはら」だとか「しのはら」だとか言って地元の方からキョトン顔をされてしまう。


2月28日


村役場の方から連絡あり、村のニュースの収録を撮影させてもらうこととなった。てっきり収録は放送室みたいなところがあってそこで行なっているのかと思いきや、村役場の端っこにある物置のようなところで行われていた。おそらくそこが一番静かなのだと思う。そこにパソコンと簡単な収録設備が置いてあった。個人的にはこうした場所で録られていることがとても興味深かった。

昼食はGoogleマップ上にある「やぶはら食堂」というところに行ってみるかと思って着いてみたらお休み。少し戻り道の駅で山賊揚げ定食を食べる。腹一杯。

夜は初日にみんなで行こうとして行けなかった「三度笠」というスナックへ。


2月29日


電車に乗っていると木曽川沿いは発電所がたくさんあることに気づく。どれも水力発電をしているらしい。

須原という駅で、初日のパーティーに来ていた奥野宏さんと待ち合わせをして、色々案内していただいた。会ったのが昼時だったので米っ子大桑工房で昼食。木曽牛のカレーを食べた。そこで奥さんとお子さんとお会いした。お子さんは人見知りで僕のことを見るけれど、恥ずかしそう。しばらくしたら岩熊夫妻も合流してくれた。奥野夫妻は地域おこし協力隊としてこちらに移り住んでいるらしい。お二人とも不思議な縁でここに辿り着いたようでもっと詳しく聞けば良かったと少し後悔。

奥野さん、岩熊夫妻、僕の4人で阿寺渓谷へ。上流へ行けば行くほど川が澄み切ってきれいな青色になっていく。その後、大桑村の村役場兼図書館へ。ここから「謎の煙突」が見られるとのことで。行ってみると確かに山の中からボコっと煙突が出ている。どうやら水力発電に使われる煙突らしいが、山が巨大な列車にも見えてくる。その後図書館にも寄って館長さんとお話しした。映画の上映企画もされているそうで、『移動する〜』がここでも上映できたら嬉しい。最後に、奥野さんがリノベーションしている築100年の古民家へ。今はがっつりリノベーション中なので床が剥がれていたり、巨大な階段がゴロっと転がってる。完成がとても楽しみだが、どれくらい先にできる予定なのだろうか。

ここで奥野さんとはお別れし、岩熊夫妻と薮原に帰る。途中とある神社に寄った。なんでも、なんでも作ってしまうナントカさん(しまった!名前を忘れてしまった)という方がいるそうで、トイレを作ったり、龍の彫刻を作っているらしい。岩熊さんに手招きされて奥に行くと、立派な滝が。その迫力にテンションが上がったが、どうやらこの滝も(!)そのナントカさんの手作りだと聞いてびっくり。滝を作ることができるなんて…。

さて今日は最後の夜。実は初日に買ったカップヌードルをまだ食べていなかったので、夜ご飯はカップヌードル。


3月1日


午前中のうちに片付けはほぼ済み、昨晩降り積もった雪をかいていたすぐ後に、岩熊夫妻が到着。荷物を積んで、まず役場で鍵を返して、村周辺を車で案内してくれた。

味噌川ダム。でかい。うっすらと表面は凍っているようだ。村を上から見たのは今日初めてで新鮮な気持ちになる。谷間に吹く風が強く気持ちいい。そのまま近くの白菜畑へ。といっても、一面雪でただの平野になっていたが、この雪の下には寒さに耐えた白菜があるのだ。晴れていて雪景色の中にいるととにかく眩しい!サングラスを持ってくればよかった。目を開けていられない。

次にスキー場へ。村の子供はリフトが無料になるらしい。美幸さんが幼い頃は黄色い帽子が村の子の合図だったそう。スキー教室もあって日本代表選手も出ているらしい。

そんなこんなで12時をすぎ、おすすめのお蕎麦屋さんに連れて行ってもらった。これがめちゃ美味しい。蕎麦湯も濃くて好みの味だった。

最後に昨日も聞いた、なんでも作ってしまう巾さん(ハバ)さんの作った「城」を見せてくれた。城といっても手作りのジャングルジムだが、どうやら落とし穴も仕掛けられていて危ない。ただその危険を味わうこともこの城(遊具?)の醍醐味だ。考えてみると僕の住んでいる横浜である日、知らないおじさんが城と称して自作遊具を作り出したら速攻撤去されるだろう。それが残っているのだから、この場所はすごい場所だ。小さい町・村だからなのか色々なことに寛大であるし決定スピードも早い。そういえばベンチャー企業とかが地方で生まれるのも、もしかしたらこうした良さがあるからかもしれない。

帰りは宮ノ越という駅まで送ってくれた。岩熊夫妻はホームまでわざわざ見送りに来てくれた。ホームに積もっていた雪には小さな動物の足跡らしいものもあった。


これで今回のアーティストの冬眠は終わった。1週間はやっぱり短く、しっかりと作品を作るというよりかは、作品を作るための種を見つけることで精一杯。もっと深堀したり、関係を作っていくにはより長い期間が必要だが、だからこそまた戻ってきたい気持ちが生まれた。岩熊さんとはワークショップをやりたいねという話をいただいた。是非また戻ってきたい。

ところで長野だからこれはしょうがないのだけど「上飯田町」といったら全員が長野の飯田近くにある町だと思われていた。せっかく親近感を持ってくれたところに「実は横浜のはずれでして…」と説明するのはなんだか申し訳ない。これからは説明の仕方を考えなければな。

 
 
 

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