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2年でお別れ

  • 執筆者の写真: Sota Takahashi
    Sota Takahashi
  • 4月7日
  • 読了時間: 5分

 僕は物持ちがいい。小学生の頃から使っている筆箱がある。高校生の頃から着ている服もある。リップクリームは5年かけて使い切った。家のパソコンは前の会社で使っていたものをそのまま買い取ったもので、もう10年くらいになるのかな。先日残念ながら壊れてしまった髭剃りも10年以上使っていた。捨てる前にじっと髭剃りを見つめた。そういえばこの髭剃りとはいろんな場所に旅行に行ったなぁ。「ありがとうね」と口に出して捨てた。

 壊れてくれれば話が早い。それは捨てられる。ただまだ使えるのに捨てちゃうことはとっても嫌なのだ。だから壊れるまでずっと使う。全く趣味ではない靴下があって、それなんか多分10年くらい前にもらった。「履かなかったら捨てちゃえばいいから」と言われたが、まだ履けるものを捨てるのがもったいないから捨てられていない。

 そんな性格なもので、ずっと使えるものをもらうのが怖い。本当にずっと使ってしまうからだ。だから昔付き合っていた恋人に「プレゼントは消耗品にしてほしい」と言った。とても不満そうな顔をしていた。こいつ私との関係をさっさと終わらせる気なんだわ、なんて思われただろうか。そうじゃない。僕とあなたの人間関係よりも、僕とその物の関係のほうが長く続く可能性が極めて高いのだ。今は”痘痕も靨”でよく見えているだろうが、そんな魔法は必ず解けて僕を嫌って去るときがくる。そのときに僕はもらった物を捨てられない。すると、それを見るたびにくれた人を思い出してしまうだろう。結局そのとき不満そうな顔をしていた恋人は2年後、向こうから別れ話を切り出してきた。ほら言わんこっちゃない。あのとき贈ってくれたハンカチはどうすればいいんだ。今も引き出しに入っているぞ。


 つい最近スマホを買い替えた。iPhone 7から最新機種16eにした。iPhone 7は5年使っていて、当時ですら型落ちだったのだが十分事足りていた。ところが充電池がもう限界にきていた。モバイルバッテリーがあればもつが、仕事中にずっとモバイルバッテリーを持っているのは相当煩わしい。

 ということでいよいよ僕もこのiPhone 7を買い替えることとした。ケータイ屋で説明をしてくれた方は非常に丁寧な説明で、こういう商品を取り扱う方独特の割り切った言い方も良かったし、かといってそういう人特有のこちらを急かせる感じもない。さらっと「同い年ですね」と言っていたので同じ平成3年生まれ同士の謎の仲間感も生まれ、その場で契約することにした。僕が契約したプランは、これから24ヶ月間は月額1円で本体を使えて25ヶ月目から本体を返却すれば残金を支払う必要がなくなるというものだった。リース契約のようなものだ。返却してしまうから手元に本体が残らないのはちょいと寂しい気もするが、何より安い。2年で24円だ。2年経ったら、またこの人に対応してもらって、そこで「あら久々ですね」なんて話せたらなんか良いじゃないか。

 ということで僕と16eの2年間だけの付き合いが始まった。2年経てばこいつがまだどれほど機能的に問題なかろうともオサラバだ。思えばそんな関係で物と向き合うことはなかった。随分とドライで寂しい関係を取り結ぶようになったものだ。こんな高価なパソコンがさも消耗品かのように使われるなんて。平成一桁生まれの私にはやはりどこか抵抗がある。


 「すみません、1点忘れていました」と説明してくれた方が言った。「月々の料金とは別に頭金で16,500円かかるんです」と。それなら別の機種にする可能性だって生まれるし話は随分変わってくるのだが…まあこの人も丁寧に対応してくれたし、最新機種が使えるのだし、いいか。すると続けて「ただこちらの商品を16,500円分以上購入いただくと頭金を0円にできます」と言う。なんだか怪しくなってきた。理屈もよくわからない。その商品というのはスマホケースやら保護フィルムやら、どうせ後日買うようなものばかり。それならちょうど16,500円分買えば、実質タダで周辺機器が貰えたようなものだ。まあいいかと思っていると、その人はやたら16,500円を超えるような組み合わせを勧めてくる。「この組み合わせが一番値段的に近いと思います」とかなんとか。見てみると、合計2万円弱になっている。しかも正直いらないものばかり。「この充電器は僕持っているんですよね」と言うがなぜかそれを推してくる。できうる満面の笑みで「ちょっと自分で見てみてもいいですか」と言って商品を見てみると、全然もっといい組み合わせはあるじゃないか。こいつ、ハメようとしてるな。僕はギリギリ16,500円のラインを探った。あと8,000円くらいの商品があればちょうどいいのだけどなぁというところで「うち8,000円代の商品ないんですよねぇ」とか言ってくる。僕は疑いの眼差しを隠しつつ店頭にある商品を見てみた。あった。microSDカード8,500円。SDカードなら仕事で使うしこれでいいや。結局16,900円くらいでスマホケース、保護ガラス、SDカードを買った。本体代にプラス400円でこの3つが付いてきたと思えばお得だろう。あやうくぼったくられるところだった。どんなもんじゃい。


 帰りの電車の中で8,500円のSDカードをネットで調べた。相場は600円くらいであった。すぐにメルカリで650円で出した。即日売れた。もう手元にはない。このスマホケースだって、保護ガラスだって、調べたら二束三文である。このスマホもどうせ向こう2年の関係だ。スマホが消耗品となる時代で本当に良かったと思った。

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