Ron Maelに会う
- Sota Takahashi
- 2022年8月18日
- 読了時間: 5分

僕は今日、こども映画教室の打ち合わせのために渋谷に向かっていた。しかし今日の渋谷はいつもの渋谷とは違う。Sparksがいる可能性が高いのだ。僕は知っている。来日の度に渋谷のタワレコに行くことを。だから今回の来日中もきっと行くに違いないと思っていた。だから打ち合わせの開始時間よりも30分も早く着いて、ちょっとばかしタワレコをのぞこうと思っていた。
Sparksは数日前に来日した。ご丁寧に公式Twitterで来日を知らせていたからわかっている。そしてその滞在はサマソニ出演のためだということもわかっている。だからライブ日前に渋谷に行くことがあったら絶対にSparksを探す時間をとろうと決めていた。それが今日だった。
しかしライブの日程を調べてみたら、なんと明日がライブ日。ということはおそらく今日はリハ日…。これは望みが薄い…。まあいい。せっかく来たんだから軽く探そうじゃないか。そうだ、僕はスイスのロールに滞在してゴダールを探したこともある。結局会えなかったけれど、まあそれはそれで街を知るいい機会になったじゃないか。今回も徒労で終わったとしても、いいじゃないか。そう思って渋谷駅の改札を出た。
数日前のツイートを見ると、Sparksは渋谷のハチ公前あたりで写真を撮っていたので、そのあたりはよく行くのかもしれないと、ハチ公前を通るルートで行った。もしかしたら今日はモヤイ像側から出るかもしれないと、一旦モヤイ像前も通って、辺りを見回してみた。喫煙者しかいなかった。そうだよなと思い、今度はハチ公前へ。目をギョロギョロと見回してみてもSparksはいなかった。ハチ公と一緒に写真を撮る外人はSparksとは似ても似つかぬ駄外人であった。そうそう、今日はリハ日だしいるわけないよな。僕はせっかくだからSparksを見つけられなかった記念に彼らがTwitterにあげていた写真と全く同じ構図で、だけど被写体はいない写真を撮った。

これが元のツイート

これが僕が撮った画像
Russelの写真を撮ったのはRonだろうか。だからRusselを撮ったRonがいたであろう場所から渋谷駅を撮った。「ここにSparksがいたのか」と思った。
さ、ではタワレコ方面に行こう。そう思ってスクランブル交差点の方を向いて歩いていたら、ちょうど信号が変わるところだったので、次青になったら渡ろうと思った。と、そこに前から歩いてくる人がいた。
Ron Maelだった。間違いない。あの帽子、あの眼鏡、あの黒い服。マスクをしていてもわかる。あれはSparksのほぼ全ての作詞作曲をする、イギリスでヒットした際に散々ヒトラーと書かれた、Cool Placesで陽気にダンスを踊る男、Ron Maelであった。一瞬息が止まった。しかし僕は「もし会ったら何をするか」という妄想を来る時からしまくっていたので、交差点のこちら側に来たタイミングで躊躇わずに声をかけた。ところでそのとき通訳の方だろうか、日本のマネージャーさんだろうか、2人で歩いていた。しかしそんなこと関係ない。”Excuse me, are you Ron Mael?”と聞いた。なんて答えたのか覚えていない。何か答えたのだろうか。ただ僕はもうRon Maelだという確信があったので、「10年以上Sparksのファンです」と伝えた。それにも何か答えてくれただろうか、覚えていない。頭が真っ白になっていた。Ronは、「で、なんだ?何をすればいい」と言った気がする。だから「写真を撮ってくれませんか?」と聞いた。そうしたら「写真はだめだけどサインならいいよ」と答えてくれた。お互いマスクをしていてなんて言ったのかわからないところがあって、僕たちの会話はうまく成立していなかったかもしれない。その度に通訳らしき横にいた人をみたけれど、大した助け舟を出してはくれなかった。そうか、サインならいいのか、僕はノートを取り出して、常備している赤いサインペンと一緒に渡した。Ronはその場でサラサラっとサインを書いてくれた。道端で、書きにくそうだったけれど「Ron M SPARKS 2022」と書いてくれた。

ありがとうと伝えて、僕は図々しくも握手を求めた。そうしたら手を出してくれて握手をしてくれた。コロナ禍だからか、僕も失礼なことをしたと後から少し思った。けど、僕の目の前に高校時代からずうっとファンだったSparksのRon Maelがいるのだ。もうこの際だからいってやれという感じで握手を求めた。骨張っていて大きい手だった。なるほどこの手でキーボードを弾くのかと思った。なんども”Thank you so much”と伝えた。そうしたら「ライブには来るのか?」と聞いてきた。僕は「残念ながらチケットが取れなかった」と伝えた。少しRonも残念そうな身振りをした。「けど『アネット』も(といったら「オー」と少し嬉しそうな仕草をした)『スパークス・ブラザース』も見ました」と伝えた。そうしたらもうあとは特に何をするわけでもない。Ronの時間を奪っているのも申し訳なくなってきた。そろそろお別れだ。去り際にRonが”Nice shirt(だったか”I like your shirt”だったか忘れた)”と言って僕の着ていたTシャツを指差した。それは数ヶ月前に黒沢さんに許可を得ずに勝手に作った『ドレミファ娘の血は騒ぐ』のTシャツだった。僕はもう一度”Thank you”と言って別れた。一瞬の出来事だった。ステージ上のRonを見たことはあったが、実物は思ったより大きかった。僕は興奮冷めやらぬまま、とりあえずスクランブル交差点を反対側に渡って、ツイートをした。ハチ公前の広場にはまだあの帽子の背の高いRon Maelが見えた。しかし、写真は断られたので、撮れなかった。震える手をなんとかおさえつつ、歩いていった。
こども映画教室のアトリエに入った瞬間、この一部始終を話した。といってもSparksを知らないだろうから「『アネット』の音楽を担当したSparksにさっき会ったんですよ!」と伝えた。僕の興奮が伝わったのか、反応してくれて嬉しかった。その後打ち合わせをしていたらすっかり18時をすぎていた。
帰る途中、もう一度会ったあの場所を通った。当然もうRonも、どうやら新宿にいたらしいRusselもいなかった。その時ふと、あれは本当にRon Maelだったのだろうかと不安になった。そういえばRonの顔はマスクで覆われていた。サインまでもらった。しかし、他の人だったらどうしよう。写真があるわけでもない…。いや、そんなわけがない。あれは間違いなくRonであった。僕はライブに来るのか聞かれたときに、声を聞いた。Ronの声だった。握手をした。大きい手だった。Ronは少しだけ、僕とだけ話しをしてくれた。
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